「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくガリア戦記

第五段

テキスト

post eius mortem nihilominus Helvetii id, quod constituerant, facere conantur, ut e finibus suis exeant. ubi iam se ad eam rem paratos esse arbitrati sunt, oppida sua omnia, numero ad duodecim, vicos ad quadringentos, reliqua privata aedificia incendunt, frumentum omne praeter, quod secum portaturi erant, comburunt, ut domum reditionis spe sublata paratiores ad omnia pericula subeunda essent; trium mensum molita cibaria sibi quemque domo efferre iubent. persuadent Rauracis et Tulingis et Latobrigis finitimis, uti eodem usi consilio oppidis suis vicisque exustis una cum iis proficiscantur, Boiosque, qui trans Rhenum incoluerant et in agrum Noricum transierant Noreiamque oppugnabant, receptos ad se socios sibi sbsciscunt.

解説

post eius mortem nihilominus Helvetii id, quod constituerant, facere conantur,

eiusはOrgetorigisということですが、単純にsuumとならないのは、この文の主語がHelvetiiであって、再帰代名詞で受けると「Helvetiiの」となってしまうからですね。nihilominus (nihil + minus)は、英語のnonetheless (none + the less)と同じで、「しかし、それにもかかわらず、それでもなお」という意味です。nihilo minusと二語で綴るテキストもあります。「id, quod constituerant」は「決めたこと」ですね。過去完了時制ですが、「facere conantur」(しようとしている)が現在時制であるのと、時制的にどういう関係にあるのかは不明です(ご存知の方はご教示いただければ幸いです)。

ut e finibus suis exeant.

普通にut目的文と考えてもいいですが、説明的(explikativ)だと解説しているものが多いようです。要するに、id, quod constituerant, facereの言い換えです。「つまり、自らの国(境)から出〔ようとしているのだ〕」。接続法現在時制ですね。

ubi iam se ad eam rem paratos esse arbitrati sunt,

ubi節ですが、ubiは直説法完了時制とともに用いて、「~するや否や」という表現をすることが多いです。ここでは倒錯動詞のarbitrariが完了時制で用いられています。ad ... paratus esseは、「~の準備ができている」とか、「~の覚悟ができている」とかいう意味です。「そのことについて自分たちは覚悟ができた、と思うや否や」ということですね。a.c.i.で再帰代名詞の対格が出てきていますが、主語はHelvetiiです。

oppida sua omnia, numero ad duodecim, vicos ad quadringentos, reliqua privata aedificia incendunt,

ここからはけっこう激しいですね。ヘルウェティー人の覚悟がいかに壮絶だったかがよくわかります。Orgetorixは単なる着火剤で、これから起こる戦争の本当の原因は、いままで燻っていたヘルウェティー人たちの欲求であったことがよくわかります。

文の基本的な構造としては、対格が三つほど続いたあとに、incendo, incendi, incensum, incendere(火をつける)の現在時制がきます。三人称複数ですから、主語はHelvetiiのままですね。で、ヘルウェティー人たちが何を燃やしたのかが壮絶です。

まず一つ目が、oppida sua omnia(彼らのすべての城市)。oppidumというのは、壁で囲んであって城を兼ねた街ですね(漢文の「城」と同じです)。numero ad duodecimというわけですから、12の城市を全部焼いちゃったわけです。この奪格は、anno ...と同じような使い方で、「数としては」という感じです。

二つ目が、vicos ad quadringentos(400にのぼる村々)。唖然と言う感じです。vicus, vici (m.)が基本形ですね。

三つ目が、reliqua privata aedificia(〔それでもなお〕残った私邸)。もはや帰る家はありません。

故事成語で「背水の陣」というのがありますよね。韓信がわざと川を背にして陣を立てて退路を断ち、兵卒たちの覚悟を固めさせて見事勝利したという、人間心理を鋭くついた陣立てのことです。ここでのヘルウェティー人の行動も同じようなものです。

余談ですが、故事の成り立ちから考えると、負け続きのチームなどを指して「背水の陣」というのは、少し意味が転用された使い方のようですね。多分、戦略のためにわざと負けたのではないでしょうから。

frumentum omne praeter, quod secum portaturi erant, comburunt,

frumentum omne(すべての穀物)は中性対格ですね。それにpraeter, quod secum portaturi erantが係っているわけですが、こういう句の形が気になるようでしたら、idを入れて、praeter, id quod secum portaturi erantとでもすれば、親しみやすいと思います。quodは対格で、portaturi erantというportareの能動態未来分詞にesseの未完了がくっついたものの目的語になっています。

comburuntは、comburo, combussi, combustum, combere(燃やしてなくす)の現在時制ですね。「彼らがもっていこうとしていた以上の穀物はすべて焼き棄てた」ということです。

ut domum reditionis spe sublata paratiores ad omnia pericula subeunda essent;

まず、domum reditionis spe sublataは独立奪格です。domumというのは本来domus(不規則変化)の単数対格ですが、副詞のように使われて、「家に、故郷に」ということです。ドイツ語のheimみたいなものです。reditioはredeo, redii, reditum, redireの名詞形で、帰ることですね。つまり、「故郷に帰ること(Heimkehr)」です。それが属格になってspes, spei(希望)に係っています。E型変化の珍しい名詞ですが、よく使います(E型は大抵みんなそうですが)。sublataはsuffero, sustuli, sublatum, sufferreないしtollo, sustuli, sublatum, tollereの過去分詞女性形ですね。いずれの動詞にしても、aufhebenとかなり重なる意味内容を持っています。ここではtollereの過去分詞として、「やめてなくす」という意味だと思います。

paratus, parata, paratumというのがさっきが出てきましたが、paratioはその名詞形です。主格でしょう。そのあとは、例のゲルンディーウゥムをゲルンディウムに書き換える構文ですね。subeoは、sub + eoということで、「下に行く」という文字通りの意味のほかに、「引き受ける」という意味もあります。何となく語感つかめますよね。essentは接続法の未完了時制で、ここではコプラではなく、存在を表す動詞ですね。「用意がある」と日本語でも言いますね。ut目的文ですから、結局、「あらゆる危険を引き受ける用意がある〔できる〕ように」ということです。

trium mensum molita cibaria sibi quemque domo efferre iubent.

構造としては、iubeo(命ずる)がa.c.i.をとっています。quemqueはquisque(各人が。jeder、every)の男性単数対格ですが、これがa.c.i.の対格になります。

trium mensumは、trium mensiumのことで、「3か月分の」(複数属格)ということです。molita cibariaは、「挽いた(molo, molui, molitum, molere)糧食」、つまり小麦粉のことです。ローマでは糧食は挽かずに配給していたらしく(各人の手挽き臼で挽く)、手続の違いとしてCaesarは特筆したようです。cibaria, cibarorumは複数中性ですが、ここでは対格です。efferreの目的語ですね。なお、molereは、mola, molae(挽臼)から派生した動詞です。

ここで与格のsibiが入っていますが、「自分たちのために」もっていく、というような使い方でしょう。domoはdomusの奪格で、「家から」ということです。

persuadent Rauracis et Tulingis et Latobrigis finitimis, uti eodem usi consilio oppidis suis vicisque exustis una cum iis proficiscantur,

相変わらずよく用いられる説得構文ですが、ここでは、utの代わりにutiという古形が用いられています。ここでは、a.c.i.はありません。

説得の対象となったのは、Rauraci(ラウラキー)・Tulingi(トゥリンギー)・Latobrigi(ラトブリギー)という3つの部族です。 Rauraciはケルト系、あとの2つはゲルマン系だそうです。いずれもヘルウェティー人と「隣接していた(finitimus, finitima, finitimum)」ようです。

uti節ですが、まず、eodem usi consilioは独立奪格です。consilio utiというのは「計画を用いる」ということで(utor, usus sum, usum, utiは奪格支配の動詞です)、「同じ計画(eodem consilio)が用いられた」ということです(奪格支配の動詞から受動的表現をつくることも可能だということですね)。次に、oppidis suis vicisque exustisも独立奪格です。exuro, exussi, exustum, exurereは、「焼き尽くす」という意味です。そして、最後にuna cum iis proficiscanturですが、unaは「『一』緒に」という意味の副詞です。proficiscor, profectus sum, profectum, proficisciは「出発する」という意味の倒錯動詞ですから、「ヘルウェティア人たちと一緒に出発する」ということです。

Boiosque, qui trans Rhenum incoluerant et in agrum Noricum transierant Noreiamque oppugnabant, receptos ad se socios sibi adsciscunt.

このBoi(ボイー人)というのは、北東バイエルンからボヘミア(チェコ)に移ったケルト系の部族で、ボヘミアという地名の由来(Boi haemum)となった部族です。その一部は、現在のオーストリアのシュタイアマルク(Steiermark)州あたりに移ったようです。

関係節は特に難しくないですね。trans Rhenum incoluerant(ライン川の向こうに住んでいた)とin agrum Noricum transierant(ノーリクムの地に移った)は、過去完了形です。inの補語は対格なので、動きを表していますね。ager NoricusはNoricusと形容詞で用いられていますが、地名はNoricumだそうで、現在のシュタイアマルクにあたります。Noreia(ノーレーイァ)というのがその首都ですが、今日のノイマルクト(Neumarkt)という場所だそうです。そして、Noreiam oppugnabantは未完了時制です。oppugno, oppugnavi, oppugnatum, oppugnareは「襲撃する」ですね。全体としては、過去完了、過去完了、未完了という風に時間の経過を表しているようですが、最初の過去完了は、過去完了よりも古い時制を表す時制がないので、仕方なく過去完了になっているんでしょう。

対格Boiosに、動詞recipio, recepi, receptum, recipereの受動態完了分詞が付いていますが、recipere ad seで「受け入れる」という意味です。seはこの分の主語であるHelvetiiを指していますから、「ヘルウェティー人に受け入れられたボイー人を」ということです。aliquem sibi socium a(d)sciscoは「~を仲間にする(jemanden zu seinem Bundesgenossen machen)」です。なお、先週号では、adsciscuntの綴りにタイプミスがありましたので、お詫びして訂正いたします。

補足説明

Kiyonoさんからご指摘を受けて気づいたのですが、uti eodem usi consilio oppidis suis vicisque exustis una cum iis proficiscanturの部分、説明が間違っていましたね。後のoppidis suis vicisque exustisにつられて、ついつい「独立奪格」と書いてしまいましたが、eodem usi consilioは、単に主語を形容しているだけだと思います(倒錯動詞の受動態完了分詞(意味は能動「用いる」)の男性複数主格で、この節の主語であるRauraci et Tulingi et Latobrigiを形容します)。トンチンカンな説明をしてしまい、どうもすみませんでした。訂正の上、お詫び申し上げます。

また、ご指摘くださったKiyonoさんには、この場でもう一度お礼を申し上げます。

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らくらくラテン語入門

1. 挨拶(1)、名前の訊き方
2. 発音
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5. 奪格(2)、動詞の活用―現在時制(1)
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10. 格の用法(まとめ)と名詞のOA型格変化
11. 形容詞のOA型格変化
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13. 挨拶(2)
14. 名詞のI型・子音型格変化
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