はじめに
「ラテン語」というと、皆さん、どのようなイメージを抱かれますか? 多分、「とても難しい言語」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。そして、このようなイメージから、初めから諦めたり、敬遠してしまっていませんか?
しかし、これはとても残念なことです。
ラテン語というのは、すべてのヨーロッパ言語を生んだ母親のような存在です。ですから、イタリア語・スペイン語・フランス語・ルーマニア語・レトロマン語といったラテン系の諸言語を学ぶときだけでなく、ゲルマンという父親との交配によって成立したドイツ語・オランダ語・英語のような言語を学ぶ際にも、ラテン語はとても役に立ちます。
一般に、言語を学ぶときには、その言語の成り立ちを知っているかどうかで、知的な満足度に大きな差が出てきます。あたかも、部首を知れば漢字が100倍面白く、しかも分かりやすく学べるのと同じように、ラテン語を知れば、 現代ヨーロッパ言語を100倍面白く、しかも分かりやすく学ぶことができます。
また、ラテン語は、分野によって異なりますが、だいたい18世紀から19世紀ごろに至るまで、ヨーロッパの学問の言語としての地位を占めてきました。したがって、どの学問でも、少しでも本格的にやろうとすれば、ラテン語を避けて通ることはできないのです。このことは、神学・歴史学・文学のような分野だけでなく、哲学・法学・政治学・物理学・生物学・化学・医学のような学問分野についても当てはまります。現在でも、植物の学名にはラテン語が用いられていることをご存知の方も多いでしょう。
こう考えてくると、多くの人にとって、ラテン語という言語を学ぶことには、それを上回る利益がありそうです。その証拠に、ヨーロッパの中等教育においては、現在でもラテン語がきちんとカリキュラムに採り入れられています。そして、高等教育においては、ラテン語は一種の常識として、学術論文その他に おいて引用され、また、いくつかの学部では、ラテン語ができないと博士号を 取得することが許されません。いかにラテン語が重要な言語であるかが、よく分かります。
ただ、世界の共通認識として、「ラテン語の文法はきわめて厄介だ」ということがあります。これは、現在「模範的」とされている文体が一種の雅語であるということと、関係があります。とはいえ、難しいものをいかに分かりやすく料理するかが、教える者の力量です。難しい素材であるからこそ、それをいかに面白く、わかりやすく教えることができるか、ということが重要になってくるのです。
そういう意味で、もしあなたが現在素晴らしいラテン語の教師に教えていただいているのであれば、それはとても幸運なことだと確信をもってお伝えしたいと思います。なぜなら、日本にはラテン語がほとんど浸透していないため、優れた教師どころか、教師自体を見つけることがたいへん難しいという状況なのです。ラテン語の授業をもつ高等学校の存在は訊いたことがありませんし、 ラテン語の講座を置いていない大学すらも少なくないようです。また、文法書・参考書の類についても、独習には必ずしも向いていないものがほとんどです。
これが、私が微力も顧みずに「分かりやすいラテン語メールマガジンを執筆しよう」と思い立った理由です。メールマガジンならば、世界のどこにいても、受信して学ぶことができます。幸い、このメールマガジンは大好評を博して、多くの読者の方々に受け入れられることになりました。
ただ、配信したメールマガジンには、毎回若干のタイプミスや間違いが含まれており、多くはその後の号で訂正をしたのですが、まだ校閲しきれていないきらいがありました。したがって、いつかこのメールマガジンのバックナンバーに必要な改訂を加えて、見やすい一つのウェブサイトにまとめてみたいと、常々考えていました。
というのも、メールマガジンの場合、配信のときに登録していた人しか学ぶことはできませんが、ウェブサイトであれば、半永久的に、すべての人が学ぶことができるからです。
そして、この考えを実現したのが、このサイトです。きっと、皆さんにも気に入っていただけると思います。
とはいえ、これが終わりではありません。今後もメールマガジンの配信は続けていきますので、このサイトも、今後ますます拡充されていくでしょう。 私自身、今後ますます成長し続けるこのサイトの将来を楽しみにしています。
このサイトを通じて、皆さんにラテン語の楽しさを知っていただければ、それに勝る喜びはありません。それでは、ごゆっくりお楽しみください。
* ラテン語文法を調べる場合には、ラテン語(lingua Latina)が便利です。
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